定期借地の物納…保証金の相続税評価は債務?!
定期借地権を設定した土地、つまり定借底地の物納も可能ではあります。ただし相続税の上での対応はかなり厳しいものがあります。
定期借地の相続税は?
1995年4月…
ある地主さんが、一般定期借地権(期間50年)による土地活用の契約をしていました。この地主さんは、この年の12月に死亡します。土地は約40坪。相続税評価額は、更地評価で2000万円。保証金は、50年間無利息で500万円。
さて、相続税はどうなるのでしょう…。
遺産の評価額
まずは、国税庁の定めに基づいて、遺産の評価が行われます。
定期借地権が設定された土地の評価額は、当時の通達により更地の80%でした。
ですから…2000万円×80%=1600万円ですね。
預かった保証金の500万円は、預金にしてありました。
そこで、そのまま『預金』として500万円‥というわけにはいきません。
保証金の評価額
保証金は、将来返すべきものなので、『預金』とは異なります。
借入金と同じ、『債務』の扱いになるのです。
保証金の額面は、『▲(債務=マイナス)500万円』。でも、この「▲500万円」は、50年後の金額です。
現在の金額にして…『▲27万円』と、評価されます。
27万円を年6%で運用すると、50年後には500万円になります。
だから…債務額は「▲500万円」ではなく、《▲27万円だけ》‥という理屈です。
相続税は増額
債務額が少なくなると、マイナス額が減ります。その結果、相続税額は増えます。
遺産の評価額は…
土地1600万円+預金500万円+保証金債務▲27万円=2073万円‥になります。
更地のまま放置しておけば、更地評価の2000万円だけでした。
それが、定期借地で土地活用をしたところ、2073万円に増加したわけです。
定期借地底地の物納
1996年9月…
相続人は、相続税申告と同時に、定期借地権を設定した土地について物納申請を行います。そして、国税局物納担当及び財務局によって、二度の現地立会いが行われました。
1998年12月…
相続税の評価額の1600万円で物納許可を受けます。
国税局の物納担当から、
〈契約条項を直して保証金は清算。保証金が無くなるから地代は値上げ!〉
‥と、指示も受けます。
借地人さんに保証金500万円を返還して、地代も値上げ。物納も大変ですね。
保証金の債務控除
保証金の額面は「▲500万円」ですが、債務控除額は、「▲27万円」になります。
評価額が、《▲27万円だけ》だから‥でしたね。
さて…相続人は、借地人さんに『500万円』を返還しています。
物納する際に、《国税局の指示》があったから。
借地人さんに返還する額が『27万円』だったら、債務控除額も27万円。
でも..実際の返還額は…500万円?!
さあ〜、相続人は、納得できません。
不確実な将来の地代
土地活用は…〈借地人さんがいつでも自由に解約できる〉‥という契約内容でした。借地人さんから解約の申し出があれば、いつでも500万円を返す義務があるわけです。
地代は…保証金を無利息とすることで、安くなっていました。保証金への利息は、地代のようなものだったのです。保証金500万円を無利息とせず、確実に年6%で50年間運用できたらよいのですが、低金利下でしたし‥。
ですから、「▲27万円」と「▲500万円」の差額の473万円というのは、《将来受取る予定の金額》なのです。不確実な利益である「差額473万円」が、相続税の課税対象になっているわけですね。
その後
定期借地設定地の評価は引き下げられ、「6%」も引き下げられています。
定期借地を設定した場合の相続税は、この事例ほど酷ではなくなっています。でも、やはり厳しい状況です。相続税の評価額が下がり、物納収納額も下がっています。
住宅メーカーは、「物納ができますから」‥と営業しています。定期借地設定地の物納は、可能です。でも、定期借地契約内容が住宅メーカー主導のままでは、不可なのです。十分、注意しなければいけません。
定期借地そのものは、相続税対策には不向きです。地代収入を得るのが目的ならよいのですが‥。相続税対策として土地活用をするならば、よく考えることが必要です。